そんなことをして浮かれているうちに

今年もかぼちゃ大王の季節がやってきました。
みなさん、どうしてハロウィンにはかぼちゃ大王が出てくるかご存知ですか?
今でこそ浮かれ騒いでいるハロウィンのお祭りですが、実はとても切なく悲しい物語がそこには秘められているのです…。
 
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今を遡ることおよそ1600年前のことです。
当時、ヨーロッパ大陸を支配していたローマ帝国の圧制から逃れるためアイルランドにたどり着いたケルト人たちは、自分たちの文化や風習を頑なに守り続け、キリスト教に対し抵抗活動を続けておりました。
 
しかし、古来より勇猛果敢なことで知られるケルト民族ですが、ローマ帝国の圧倒的な軍事力の前に徐々にその領土を狭め、ついにはラグナキリア山の麓にあるエニス砦(現在のキルケニーから北東におよそ50kmほどの地点だそうです)に追い込まれてしまいました。
ケルトの王、エリオット率いる軍勢はおよそ1800に対し、ローマの将軍、ウィルバー率いる軍勢はおよそ1万5000人。しかもケルト側は傷つき疲れ果てた女子供を抱え、また男たちはすでに連戦に次ぐ連戦で疲弊しきっています。もはや勝利は絶望的かと思われましたが、ここを守りきらなければ残虐なローマ人のこと、女子供たちまで皆殺しにされてしまうでしょう。
日を追うごとに砦を囲むローマの軍勢は増え、また着実に準備を整えていきます。決戦の火蓋が切って落とされるのはもはや時間の問題、このままでは死を待つばかりです。
 
エリオットは賭けに出ました。
部下たちに食糧として保存されていたかぼちゃの中をくりぬき、それぞれに目鼻をつけるよう命じます。不思議がるケルトの民にエリオットはこのように告げたのです。
「皆のもの、これを砦の塀に並べるのだ。一人一つずつ置いたら、夜の闇に乗じて砦を抜けて行け。ラグナキリア山を通れば見つかることもないだろう」
 
ローマ軍の見張りは砦に並ぶ人影を指差し、もう一人の見張りに言いました。
「見ろ、あいつらはいつ攻撃されるかと恐れて夜も眠れない腰抜けのようだ。みんなしてこちらの様子を伺っているぞ」
 
こうしている間に、一人、また一人と砦を抜けて山へ消えていきます。最後に残った部下がエリオットにこういいました。「王様、残りは私たちだけです。早く脱出しましょう」
エリオットは静かに首を振り、塀に並んだかぼちゃを指してこう答えました。「これだけの人がいるはずなのに、誰一人動かず、物音一つしないというのは変であろう?私も夜明け前に行くつもりだ、先に行って民を先導してくれ」
 
東の空が白み始める頃。
砦に並べられたかぼちゃ人形を唖然としている見張りの横でウィルバーは狂ったように叫びます。「ケルトの男どもはかぼちゃ同然の腰抜けか。」
それを合図のように砦の扉が開き、白馬に乗ったエリオットが単騎、ローマの陣営に切り込みました。
ケルトの王は民を守り、名誉を重んじるっ」



それから幾星霜の時が過ぎました。
かつてエニス砦と呼ばれた廃墟には、誰が育てるでもないのに無数のかぼちゃが生っています。
でも、不思議なことにそのかぼちゃには、目鼻のような模様がついているのです。
王を慕っていた、民たちの悲しむ顔が。
 
皆さんもハロウィンの日には、民を思い、名誉に生きたケルトの王、エリオットのことを思い出してください。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ですけどね。